技術コラムB教室ポンプの周辺知識クラス

【B-6】
トップランナーモーター

2015年11月公開

ポンプの周辺知識のクラスを受け持つ、ティーチャーサンコンです。
トップランナー制度により、三相誘導電動機(産業用モーター)の効率基準が2015年4月から変わりました。移行期に対応に追われた方も、まだよく分かっていないという方もいらっしゃると思います。今回はそんなトップランナーモーターについて、制度導入の経緯から現状までをまとめました。

1.制度の概要

トップランナー制度とは

トップランナー制度は、1999年の「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」の改正により開始した制度です。自動車や家電などエネルギーを多く消費する「特定機器」を対象に、エネルギー消費効率の基準値を設定。目標年度までに基準をクリアしていない製品は販売不可とすることで、省エネ製品の普及を促します。

基準値を定める際、その時点で最もエネルギー消費効率が高い製品(=トップランナー)を基準とするトップランナー方式であることから、こう呼ばれています。

制度の説明図

特定機器とは

制度の対象に選ばれた機器は「特定機器」と呼ばれ、

  1. 国内において、大量に使用されるもの
  2. 多量のエネルギーを消費するもの
  3. エネルギー消費効率の改善が見込まれるもの

とされています。自動車や冷蔵庫などが挙げられており、2013年に三相誘導電動機(産業用モーター)などが追加されました。

(2015年3月時点)
1乗用自動車9ビデオテープレコーダー17自動販売機25プリンター
2エアコンディショナー10電気冷蔵庫18変圧器26ヒートポンプ給湯器
3照明器具11電気冷凍庫19ジャー炊飯器27三相誘導電動機
4テレビジョン受信機12ストーブ20電子レンジ28電球型LEDランプ
5複写機13ガス調理機器21DVDレコーダー29断熱材
6電子計算機14ガス温水機器22ルーティング機器30サッシ
7磁気ディスク装置15石油温水機器23スイッチング機器31複層ガラス
8貨物自動車16電気便座24複合機

2.トップランナーモーターの基準値と国際規格

モーターの効率レベルは、世界的規格であるIEC規格(IEC 60034-30)で規定されています。今回のトップランナーモーターの効率基準値は、基本的には、モーターのエネルギー消費効率のクラス(IEコード)を規定したJIS C4034-30(IEC60034-30)のプレミアム効率クラス(IE3)と同じです。

ただし、日本では50Hz/60Hz共用タイプで3定格又は6定格をもたせるモーターが流通しており、それらすべてに高い効率基準値を求めると、体格を大きくする等の対策が必要となり市場への影響が大きいため、区分を簡素化した基準値が採用されています。また、JIS C 4213でも省エネ法の基準値が採用されています。

IEC効率レベルと従来JISとの比較
効率レベルIEC60034-30JIS C 4034-30従来JISとの比較
プレミアム効率IE3IE3JIS C 4213と同等
高効率IE2IE2JIS C 4212と同等
標準効率IE1IE1JIS C 4210と同等

2009年の資源エネルギー庁の調査によると、日本国内のモーター普及台数は約1億台に上り、全消費電力量の約55%を占めます。もしすべてトップランナーモーターに置き換われば、期待される電力削減量は155億kWh/年と大きな省エネ効果が見込まれると言われています。

欧米や中国、韓国などでは以前からIE2やIE3への規制が進んでいましたが、日本では使用されているモーターの97%がIE1レベルと、遅れをとっていました。グローバル基準に並ぶことで、国際競争力も高まるのではと期待されています。

3.トップランナー規制の対象

トップランナー規制の対象となったモーターの範囲は次のとおりです(※インバーター駆動専用モーターでも、商用電源で運転可能であれば対象となります)。

対象範囲主な除外機種
単一速度三相かご形誘導電動機
  1. 特殊絶縁(H種)
  2. デルタスター始動方式
  3. 舶用モーター
  4. 液中モーター
  5. 防爆形モーター
  6. ハイスリップモーター
  7. ゲートモーター
  8. キャンドモーター
  9. 極低温環境下で使用するもの
  10. インバーター駆動専用設計で他力通風形のもの
出力0.75kW~375kW
極数2極、4極、6極
電圧1000V以下
周波数50Hz、60Hzおよび50Hz/60Hz
使用の種類S1(連続定格)または
80%以上の負荷時間率を持つS3(反復使用)

規制開始は2015年度。規制後はトップランナーモーターの供給が原則となるので、対象のモーターメーカー(製造事業者、輸入事業者)は2015年4月に目標基準値を達成しなければならなくなりました。また、モーターの使用者は、エネルギー消費効率の優れたモーターやモーターが組み込まれた製品の使用について、総合資源エネルギー調査会から発表されている提言の趣旨を踏まえ、省エネに努める必要があります。

モータ又はモータが組み込まれた製品の購入の際には、エネルギー消費効率の優れたモータ又はモータが組み込まれた製品の選択に努めるとともに、その使用にあたっては、適切且つ効率的な使用により省エネルギーを図るよう努めること。

総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会三相誘導電動機判断基準小委員会の最終取りまとめ報告書(2013年6月)より

4.省エネ効果と投資回収イメージ

トップランナーモーター導入のメリットには、以下のようなことが挙げられます。

  1. 標準効率モーターと比べて効率が高いため、省エネルギー効果が得られる
  2. 長時間使う用途ほど省エネルギー効果が大きく、経済性の向上が可能
  3. 損失を低減した設計のため温度上昇も小さく、長寿命・高信頼性が得られる

コストと運転時間の関係図

5.トップランナーモーターの導入時の注意点

トップランナーモーター採用にあたり、次の点にご注意ください(※特に既設からの置き換え(リプレース)時には注意が必要です)。

  1. モーターサイズが現行機より大きくなる場合がある
    取り合い寸法、据付時の周囲機器との干渉の確認が必要です。特に現行機が開放形モーターの場合はセンターハイトが高くなる恐れがあります。
  2. モーターの定格回転速度が高くなる傾向にある
    現行のポンプ、ファンなどをそのまま負荷としてリプレースする場合、速度増加に伴って動力も増加し、電力消費が増加する傾向にあります。
  3. 始動電流が大きくなる傾向にある
    これに伴い配線用遮断器、電磁開閉器などが適正か検討する必要があります。その他のモーター周辺機器についても同様に実施されることをおすすめします。
  4. モーター発生トルクが大きくなる傾向にある
    例えば減速機と直結しているような場合、機械強度が適正かどうか確認が必要です。
  5. 低始動電流仕様のモーターの製作ができなくなる
    スターデルタ始動、減電圧始動への始動方式の変更を検討する必要があります。
  6. 変動負荷に採用する場合(一部のコンプレッサー、繊維機械など)
    運転時の速度変動による発熱(一次および二次銅損)が大きくなる傾向にあります。モーターの出力適正、機械系の合成慣性について再検討が必要です。

そろそろ時間ですね!最後にまとめをしておきましょう!!

本稿のまとめ

  • 環境保護の世界的な気運の高まりのなかで、工場電力の大部分を占めるモーターの消費電力を減らすべく、世界的な高効率規制が始まっている
  • 日本国内においては、2015年4月より特定機器の対象範囲に該当するモーターは、トップランナーモーターしか入手できなくなった
  • トップランナーモーターを導入することで、省エネや経済性などの面でメリットがある
  • 規制対象はモーターメーカーですが、ユーザーも省エネに努める必要がある

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