F1メカニックとして世界を渡り歩き、
第一線でその腕を振るってきた津川哲夫氏。
彼が経験上痛感しているのは、
いつの時代もどの地域でも「オリジナルである」ことの強さ。
『オリジナルなものづくり』を追求する企業姿勢に共鳴し、
今回のヘイシン探訪が実現した。
前回までのメンバーにヘイシンのエンジニアからもう一人、技術部・須原伸久が加わり、
話は企業としての開発姿勢に及ぶ。津川さんとのトークも、ますます熱を帯びていった。
新製品の開発について、もっと踏み込んだ話を聞かせてほしいんだけど、個人的には「ホースフリーシステム」に驚いたよ! 自動車生産ラインの塗布ロボットのアームから、液体の供給ホースをなくしちゃったんだもの。ホースに縛られずにロボットを自由に動かせるなんて、現場は大歓迎だったでしょ?
もともと、こういう製品が待ち望まれていることはわかっていました。マーケットは間違いなくあったんです。ただ、求められるレベルが高すぎて、完成まで5年の歳月を費やしてしまいましたが……。
それってつまり、独自技術を持っているからこそ、他社と競争せずに技術や精度の向上に5年もかけてじっくり取り組めたってことでしょ。自分自身がライバルなのは大変だけど、ある意味幸せだよね。
担当者は「まだか」「まだか」と上から急かされ続けて、もう勘弁してほしいという気持ちも、ほんの少しはあったと思いますけどね。
確かに急かしましたが(笑)、それは、一人でじっと考えていてもモノにならないぞ!という親心みたいなものです。同じところで立ち止まっていないで、視野を広げて別のアプローチからも探っていかないと。
先へ進むためには自分で壁をつくらず自由になれ!ということだよね。だけど、自由な発想というのはラクに思えて難しい……。よく完成させたよ。
完成したとき、お客様も「えっ、ホントにできちゃったの?!」という反応でした(笑)。でもそんな驚きは束の間のことで、すぐに新しいリクエストが生まれてきます。それをクリアしたらまた次、とハードルがどんどん上がって……。
終わらないねぇ。連続して開発していく姿勢が大切だよね。F1マシンの開発だって、手を止めたとたんにライバルにビューンと追い抜かされる。
だからこそ、地道に開発を続けていくしかありません。
そしてリクエストが来てから開発するのでは遅いから、少なくとも頭の中で想像することだけは、常にニーズの先を行ってないとダメだ。そうすれば発想も自由にできて、いろんな提案ができるんじゃないかな?
そうなんですけど、なかなか実践が難しいです。
でも技術屋としては人を驚かせたいハズだよね。例えば「ホースフリーシステム」の次の展開としてヘッドを小型化し、より柔軟な動きができるようにすれば、複雑なワークの奥まった場所にも塗布できるようになるんじゃない?
実は……既に試作を進めています。
やっぱり! いやぁ、さすがだね。完成したらまた見せてもらいに来なくっちゃ。ところで、ホースフリーシステムの開発には5年かかったわけだけど、不安になったことはなかったの?
ニーズが逃げていないか?という不安はありましたね。常に市場を確認しながら開発を進めました。
でも妥協はせずに、製品として完璧なものにするために試作や耐久試験をくり返しました。やり続けることが失敗しない秘訣だと思って……。
それ、いい言葉だね。でも企業としては利益を出すことが求められる。コストの制約があって、うまくいくか結果もわからないなかで、どこまで開発を続けられるか……。
そのスケジューリングが一番難しいですね。
開発は、時間の照準を合わせるのが難しい仕事ですが、今回はいろんな歯車がたまたまピタリと合ったとも言えます。
いや、「たまたま」なんて謙遜しているけど、みんな絶対うまくいくと思ってやっていたハズだ。今これをやればこうなる、そうすれば必ず次に行けるって。時間的な確信は持てなくてもね。
確かに、そういう意味では運任せではありませんね。明確な目標と強い意志がありましたから。
何が課題で、何にどれくらいの時間がかかり、どれだけの人員が割かれるか。勘と計算で組み立てるのはF1チームと同じだな。でも、それこそが「ものづくり」の先を見据えたタクティクスであり、組織の総合力ともいえるね。